考古学の発掘作業

埋蔵文化財の発掘調査では,埋もれた遺構と遺物の存在およびその相互関係を明らかにし,地域における歴史的意義の把握が求められます。そのためには高い知識と技術を有する発掘担当者の資質と充実した体制の整備が,必要不可欠となります。

文化庁では、平成22年3月に,発掘調査の標準化を図るために『発掘調査のてびき』(集落遺跡発掘編/整理・報告書編)を刊行しました。本書は,全国各地で行われる発掘調査が,一定の水準を保って達成できることを目的として,発掘作業から整理等作業を経て,発掘調査報告書の刊行に至るまでの考え方や方法と手順を具体的に示したものです。

また,平成25年3月には各種遺跡調査編を刊行し,墳墓・寺院・官衙・城館・生産遺跡など,さまざまな遺構に応じた具体的な調査方法についても整理を行いました。(文化庁WEBサイトより)

文化庁|埋蔵文化財 『発掘調査のてびき』

一般的な発掘作業手順

調査エリアの設定と基準杭の設置

発掘調査にあたり、標高や座標値を示す「基準杭」を用いて、調査エリアを設定します。
エリアの堆積土を、重機を用いて遺構が確認できる地層(遺構確認面)まで除去します。遺構確認面は、遺跡の種類や時代、遺跡の現状によって異なります。

堆積土除去作業

堆積土を除去した後、人の手でスコップやジョレンで地面を丁寧に削っていきます。遺構がある場所は、さまざまな形や大きさで「堆積土」を確認することができます。例として、関東ローム層上では黄色地面の所々に黒色の遺構の堆積土を確認することができます。

調査用グリッドの設置と遺構確認図の作成

遺構の確認作業と並行して、基準杭を用いて調査エリアに「調査用グリッド」を組んでいきます。このグリッドは、エリア上に仮想の方眼をかけるもので、遺構の位置などを把握するために必要となります。また、このグリッドを用いて、それぞれの遺構が遺跡内でどのように分布しているのかを明らかにする「遺構確認図」を作成します。確認図から、遺構の調査順序を判断し、遺跡の起伏状況を示す等高線図なども作成します。

セクションベルトの設定

遺物を掘る前に土層の堆積状況を調べるための「セクションベルト」を設定します。セクションベルトを残し、ベルト以外の堆積土を移植ゴテで少しずつ平坦に掘り下げます。

遺物の取り上げ

まとまって出土した遺物や床面に接して出土した遺物は、出土状況を保ちながら掘り下げていきます。それ以外の遺物は取り上げ、その出土位置が明確に分かるようなラベル(出土位置を記載した荷札)を付けて収納します。

土層図の作成

遺跡の底面まで掘り下げたら、土層の堆積状況を示す土層図を作成します。セクションベルトの断面を観察すると、土の色調や性質、含有物の違いなどで地層を分けることができます。土層の状況を記録することは、遺構の新旧関係などを知る上で重要な作業となります。

建物・柱穴などを確認

セクションベルトをはずして、床面を精査して柱穴などを確認します。建て直しが行なわれている住居跡では、柱穴の新旧もチェックします。遺物の出土状況が分かる写真を撮影し、遺物出土状況図を作成します。
確認した柱穴や炉(いろり)などを掘り、同じ場所で建て直しが行なわれている遺構の場合には、より新しいものから掘っていきます。

撮影保存

遺構が完掘されたら、遺構の写真撮影を行い状況保存を行います。撮影にあたってはより全体が捉えられる様にやぐら(撮影台)を組み立てて、上から撮影を行ないます。
最後に掘り終えた遺構の実測作業を行ないます。遺構を記録する際には、平面図・断面図などを作成しますが、細かな遺物や込み入った遺構などは微細図を作成します。 これらの作業の繰り返しを行なって遺跡の調査は進んで行きます。